ホタルルシフェラーゼによる発光反応には古くから2つの謎が知られている。それは(1)量子収率が高いこと、(2)ルシフェラーゼの1アミノ酸置換により発光色が黄緑色から赤色に劇的に変化することである。我々は黄緑色発光の野生型と赤色発光のS286N変異体ルシフェラーゼのX線結晶構造解析から、発光時における構造上の違いを見いだした。この結果、ルシフェラーゼによる発光体オキシルシフェリンの取り囲み方の違いが、得られる励起状態のエネルギーの違いを導き、発光色変化が生じることを明らかにした。そこで本研究ではルシフェラーゼの立体構造、発光スペクトル、量子収率、オキシルシフェリンの構造を相互的に解析し、未だ未解明のさらなる発光色制御機構を明らかにすることとした。 本領域研究では新規高次π空間分子の創製が1つの方向性である。すでに生体空間では様々な高次π空間を使った分子が存在するが、未解明の部分が多い。そこでその詳細を理解することは、新規π空間物質の分子設計には非常に有用である。ホタルのルシフェリンールシフェラーゼ反応はπ空間を巧みに利用しており、発光色の制御は励起状態のオキシルシフェリンのπ電子空間における構造状態の違いによると考えられている。そこで申請者はルシフェリンールシフェラーゼ空間の精密構造解析によって、詳細なπ空間制御機構の解明を行い、新規π空間分子の創製に役立たせようというものである。
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