電子移動蛋白質であるプラストシアニンの活性部位の電子状態および構造再配置について、密度汎関数法と第一原理分子軌道法による解析を行った。その結果、配位構造は局所的な相互作用のみで決まるという過去の計算結果は、Cu(I)状態については正確ではなく、活性部位の三角構造は不安定性を持っており、しかもそれはメチオニン配位子の位置に依存すること、このメチオニン配位子の配位は弱く、活性部位からの距離が蛋白質中で熱的に大きく揺らぐこと、よって、この揺らぎが電子移動の速度を制御する役割を担っている可能性があること、等を見出した。また、電子移動経路を解析するため、多配置波動関数法から得られた分子軌道を局在化したものを基底とする新手法を開発した。同時に、分割統治法を活用して巨大分子系の計算を実現する方向の研究も進めた。さらに、プロトンポンプを記述するため、準量子的時間依存ハートリー法という新手法を現実的な分子シミュレーションに組み込んだ。第一段階として、水中の水素結合ネットワーク構造における量子効果について解析を行った。その結果、ゼロ点効果によって水素結合構造の組み換え運動が促進され、自己拡散係数が増大すること、局所的な水和数の時間相関は、量子系では1/fスペクトルを示すのに対し、古典系では示さないこと、水素結合の組み換えのような大振幅運動には量子波束の幅の増大が常に伴うこと、等が見出された。
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