本研究では、生体分子中においてπ電子系が主要な寄与を示す量子移動諸過程の微視的機構を探るための基礎理論と分子シミュレーション手法を開発・応用し、これらが協同的に機能することで実現される生体エネルギー変換の動作原理を分子レベルで解明することを目的としている。具体的には、電子移動、酸素還元、プロトンポンプが協働する膜タンパクであるチトクロム酸化酵素の機能解明を大課題に設定し、そこへ至る小課題として、(1)銅イオン酸化還元中心の電子状態とダイナミクス、(2)プロトンポンプの経路探索と量子波束シミュレーション、などに関する基盤的研究を推進している。平成22年度の研究成果としては、タンパク質中の長距離電子移動経路解析の新手法の開発と応用、青色銅タンパク質活性中心の電子状態変化と構造再配置における配位子揺らぎ制御機構の解析、プロトンポンプの量子波束シミュレーション手法の開発と応用、原子価結合電子波束法の開発などについて進展があった。
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