研究概要 |
本研究では,地球規模の海洋底地殻中の移流を「海底下の大河」と呼び,その固相-液相の境界で起きている生物地球化学作用を明らかにすることを目標としている。特に,A05班では,「大河」で起きている現象を室内実験で検証することを目的としている。2010年度は,改良型バッチ式実験装置(海洋研究開発機構)を利用し,水素の大河再現のための実験を行った。具体的には,カンラン石を塩化ナトリウム溶液(模擬海水)中で300-400度,500気圧で加熱したところ,数mMの水素の発生が確認され,先行研究と熱力学計算の結果と非常に調和的な結果が得られ,熱水実験が世界レベルで行うことができることを示した。また,酸素フュガシティーを制御した高温加熱炉を用いて,化学組成をコントロールした岩石の合成を行い,合成した岩石を用いて熱水実験を開始することも可能になった。合成した岩石を用いた実験が可能なのは我々研究グループのみである。さらに,実験容器の中に二酸化炭素ガスを導入することにも成功した。これは,実際の熱水には二酸化炭素が含まれており,天然環境の正確な再現にさらに近づいた。岩石からの元素溶出における微生物に影響を評価した論文を1報投稿し,現在さらに1報原稿ができあがったところである。また,摩擦実験装置で高濃度の水素が発生することが明らかに成り,断層活動による水素の大河の可能性も示せた。熱水-微生物相互作用実験に関しては,前年度に稼働開始したフロー式「熱水循環微生物培養装置」を利用し,岩石-海水反応によって,微生物の代謝に利用される硫黄,鉄などの還元物質の生成が確認され,また,微生物の生息に関与する元素の溶出が確認された。今後,溶出された物質と微生物の培養結果との評価を行っていく。この成果については,論文作成中である。
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