研究概要 |
本研究では,地球規模の海洋底地殻中の移流を「海底下の大河」と呼び,その固相-液相の境界で起きている生物地球化学作用を明らかにすることを目標としている。特に,AO5班では,「大河」で起きている現象を室内実験で検証することを目的としている。改良型バッチ式実験装置を利用し,水素の大河,および硫黄の大河の再現実験を行った。水素の大河再現実験に関しては,カンラン石を模擬海水中で300-400度,500気圧で加熱したところ,数mMの水素の発生が確認された。水素の大河の一次生産者たるメタン菌をベースとした生態系は,数mMの水素によって維持することが可能であり,上記の条件下では水素の大河が成立することを示した。また,沖縄トラフ航海で採取した石英安山岩を300-400度,500気圧で加熱したところ,硫化水素の発生が確認され,硫黄の大河の再現に向けて,基礎実験が完了しつつある。酸素フュガシティーを制御した高温加熱炉を用いて,化学組成をコントロールした岩石の合成装置を構築したが,合成岩石を用いた実験が可能なのは我々研究グループのみであり,すでに合成岩石を用いた実験によるデータを数件得ている。一方,摩擦実験装置で高濃度の水素の発生を確認した成果については,Geophys.Res.Lett.に公表された。この結果は,断層に伴う海底下生命圏の可能性を示唆するものであり,波及効果は大きい。フロー式熱水循環微生物培養装置を利用した岩石-海水反応によって,硫黄,鉄などの還元物質の生成が確認された成果については,論文として投稿間際である。一方,生体必須の最小単位物質であるアミノ酸が鉱物を触媒としてどのような物理化学条件で重合化できるのかを検討した結果,スメクタイトと無水条件で反応させた場合にのみ,グリシンの重合が確認された。つまり,水の少ない環境の方が,アミノ酸の高分子化が起りやすいと推定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験装置の構築に相当な時間を要したが,バッチ式熱水実験装置では,合成岩石の実験,および,ケイ酸成分の多い石英安山岩を用いた硫黄の大河再現実験も開始した。東京薬科大のフロー型熱水実験装置も稼働し,実験結果を得られるようになった。一方,摩擦実験では重要な成果が得られ,論文として公表した。
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今後の研究の推進方策 |
熱水実験は最低でも3ヶ月かかるために,まとまった実験結果を得るためには,多くの時間と労力と技術と経験を要する。少しでも技術を向上し,多くの実験をこなすことで経験を蓄積することで,最終年度,および,今後につながる実験を進めていく。結果は,できる限り今年度に投稿できるように,綿密な計画をたてていきたい。
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