研究領域 | 分子自由度が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
20110003
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小林 昭子 日本大学, 文理学部, 教授 (50011705)
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研究分担者 |
加藤 礼三 理化学研究所, 加藤分子物性研究室, 主任研究員 (80169531)
堀内 佐智雄 (独)産業技術総合研究所, フレキシブルエレクトロニクス研究センター, 研究チーム長 (30371074)
石橋 章司 (独)産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 研究グループ長 (30356448)
西堀 英治 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (10293672)
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キーワード | 量子スピン液体 / 単一分子性金属 / 第一原理計算 / 電子密度精密解析 / 有機強誘電体 / 水素結合 / 中性-イオン性相転移 / 分子性Kondo系 |
研究概要 |
物質開発グループは以下の成果を挙げた。(1)量子スピン液体の有力な候補であるEtMe_3Sb[Pd(dmit)_2]_2のカチオン部混晶化により、三角格子の異方性を精密に制御し、反強磁性相と量子スピン液体相との境界における量子臨界現象を観測した。また、電荷・格子・軌道準位の情報を与えるC=C伸縮振動の特性を明らかにした。(2)単一分子性稀薄磁性合金[Ni_<1-X>Cu_X(tmdt)_2]を合成しx〓0.15付近の狭い範囲において、磁化率がおよそ20K以下で温度低下とともに急激に上昇し磁場増加によりその異常は抑制されること、またフォノン散乱による抵抗を差し引き、磁気散乱による抵抗変化を推定し低温で電気抵抗がlogTに比例することを確認した。分子性Kondo系が実現できたと考える。(3)フェナジン-アニル酸類の一連の共晶について、誘電率測定と回折実験により、プロトン移動による中性-イオン性不安定性を反映した超周期構造を伴う多数の新規高圧・低温相を見出した。中性-イオン性相転移物質TTF-CAが電子的要因が巨大な分極を担う極めて特異な強誘電体であることも突き止めた。巨大な誘電率を持つ分子性リラクサー系を開発した。理論計算グループは単一分子性金属・有機強誘電体について、電子状態の解明を行なった。Au(tmdt)_2について、静水圧が電子状態に及ぼす影響を、フェルミ準位近傍のAu5d軌道のエネルギー変化と磁性の発現に着目し調べた。TTF-QBrCl_3の自発分極を計算し、その発現機構について考察した。1/4-fillingの擬一次元拡張ハバード模型により、TMTTF塩の電子相図を得た。電子密度精密解析グループはSPring-8に置いて7Kまでの単結晶X線回折実験が可能な冷凍機を立ち上げ(TMTTF)_2PF_6の18Kにおけるスピンパイエルス転移に伴う超格子反射を観測し、消滅側からその格子を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
物質開発グループは以下の理由により当初の計画以上に進展している.Pd(dmit)_2系において、三角格子の異方性を精密に制御することに成功し、目的としていた量子臨界現象を観測することができた。当初期待していた高性能な強誘電体や新規誘電性物質や新規構造相の発見にとどまらず、分極の起源について従来の誘電体には見られなかった特異な電子的起源などが次々と明らかになってきた.分子振動の自由度を用いた巨大な誘電率を持つ分子性リラクサーを開発した。分子性稀薄磁性合金Kondo系も実現した。理論計算グループは2011年3月の震災の影響により23年度当初2か月間、手元の計算機システムが使えないということがあったものの、その後順調に研究成果を挙げている。電子密度精密解析グループは機器装置の立ち上げと、解析法の開発といった技術的な部分がほぼ立ち上がり、対象とする分子性物質での開発状況の検証も行えているため順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
物質開発ではPd(dmit)_2系に関しては、EtMe_3Sb-Et_2Me_2Sb混晶において、電荷秩序相と量子スピン液体相との相境界での性質を検討する。また、圧力下における、混晶のモット転移の性格を明らかにする。電子的効果が分子系の優れた誘電物性を発揮させる上で極めて有用であることが明らかになった今、それを積極的に活かした物質設計に取り組みたい。特に電子的効果とトレードオフ関係にある絶縁性を担保しながら、巨大分極を室温で実現できるかが一つの課題であろう。分子性Kondo系については磁気散乱源の濃度を変えて磁場下の伝導度変化を調べる等が次の課題である。理論計算ではこれまでに得られた知見をできる限り体系化することを目指し、最局在ワニエ軌道を用いたバンド計算結果の解析を軸に、それぞれの物質群の電子状態の特徴付けを行ない、分子軌道の観点から結果を整理していく。電子密度精密解析では技術的な開発はほぼ終了したため、結果の公表を念頭に置き、成果の創出に努める。
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