研究領域 | 分子自由度が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
20110005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡本 博 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 教授 (40201991)
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研究分担者 |
岩井 伸一郎 東北大学, 大学院・理学研究科, 教授 (60356524)
島野 亮 東京大学, 大学院・理学系研究科, 准教授 (40262042)
石坂 香子 東京大学, 大学院・工学系研究科, 准教授 (20376651)
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キーワード | 分子性導体 / 光誘起相転移 / 超高速分光 / テラヘルツ分光 / レーザー光電子分光 |
研究概要 |
・光誘起中性-イオン性転移のダイナミクスの温度変化と励起強度依存性の測定から、光誘起イオン性状態の鎖間相互作用による安定化機構および二量体変位による安定化機構の存在を明らかにし、本相転移の全容解明に結びつけた。二次元モット絶縁体M2P-TCNQF4が、光照射によって、高温では一次元金属へ、低温では二次元金属への相転移を示すことを見出した。 ・誘電異常を示すダイマーモット型有機伝導体・-(ET)2Cu2(CN)3を光励起すると、双極子グラスが成長することを見出した。これは、電荷秩序絶縁体やダイマーモット絶縁体における電子的秩序の融解(絶縁体-金属転移)とは異なる新しいタイプの光誘起相転移である。また、この相転移について、赤外10フエ初期ダイナミクスの観測を行い、ダイマー内双極子に関係するコヒーレント振動を検出した。 ・電場尖塔値約1MV/cmの高強度テラヘルツ光源を開発し、超伝導体NbNにおける高密度準粒子励起効果を調べた。テラヘルツパルスで準粒子を生成すると、2ピコ秒以内に超高速超伝導-常伝導転移が生じること、また、空間不均一超伝導状態が生じることを明らかにした。擬二次元有機導体・-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4の電荷秩序相のテラヘルツ分光、光およびテラヘルツ波パルスによる電荷秩序融解実験を行い、そのダイナミクスを明らかにした。 ・レーザー角度分解光電子分光測定により1次元分子性導体TSF-TCNQの電子構造と相転移現象を調べた。6K~250Kという広範囲の温度変化の測定から、電荷密度波相転移と臨界現象に伴う電子構造の変化(擬ギャップ、ギャップ形成)を明らかにした。また、フェルミ準位近傍におけるスペクトルの尖鋭化が、電荷密度波形成の必要条件となっていることを確認した。低温で高精度測定したTSF由来のバンド分散とスペクトル形状はスピン-電荷分離の可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
光誘起中性-イオン性転移の全容解明、二次元モット絶縁体の光誘起金属化における温度に依存する金属状態の次元性変化の観測、ダイマーモット状態から電荷(短距離)秩序への新規光誘起電子相転移の発見とその素過程の解明、高強度テラヘルツ波パルスの開発とそれを用いた超伝導体の電子相制御の実現、分子性導体の光電子分光測定の実現、など当初の計画を上回る成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
・赤外10 fsパルスを用いて行った、様々な有機伝導体における光誘起相転移の初期過程をひかくすることによって、その素過程を考察する。また、赤外光源の更なる短パルス化、高強度化を進め、光と物質の相互作用の真の素過程に迫る。 ・κ型ET塩で発現する超伝導相、反強磁性相のテラヘルツ分光を行い、光励起による絶縁体金属転移、反強磁性-超伝導転移の可能性を検証する。 ・テラヘルツパルス励起による新規光誘起相転移の探索を行う。 ・エキゾチック超伝導を示すBeggard塩(TMTSF)2Xの光電子分光測定を推進する。詳細な温度変化と組成依存性の測定を行い、相転移に伴う電子構造を解明する。
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