研究領域 | 分子自由度が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
20110006
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
矢持 秀起 京都大学, 低温物質科学研究センター, 教授 (20182660)
|
研究分担者 |
御崎 洋二 愛媛大学, 大学院・理工学研究科, 教授 (90202340)
藤原 秀紀 大阪府立大学, 大学院・理学系研究科, 准教授 (70290898)
森田 靖 大阪大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (70230133)
|
キーワード | 分子性固体 / 相転移 / 外場応答 / 多重不安定性 / 多段階酸化還元 / 光機能性 / 電子スピン |
研究概要 |
新規分子性固体の開拓と解析を進展させた。3種の機構が協同した金属絶縁体(MI)転移を起す多重不安定物質[(EDO-TTF)_<1-x>(MeEDO-TTF)_x]_2PF_6(x=0)の混晶を検討した。x=0.10,0.21の場合はPeierls機構のみによる転移が起きることを明らかにした。EDO-TTFのモノ塩素置換体の錯体開拓を行い、中性と+1価状態の振動スペクトルを測定した。 分担者(御崎)らは、TTP系ドナー開発開始時から20年間合成が達成されていなかったテトラメチル誘導体(TMTTP)の合成に成功した。新規の合成経路によりTTPの両末端に異なるアルキル基を導入することも可能となった。TMTTPとReO_4,PF_6,AsF_6,SbF_6の新規錯体を作製した。これらは10^2 S cm^<-1>の高い伝導性を示し、PF_6,AsF_6塩は10Kまで金属的であり、ReO_4塩は130KでMI転移を起こした。 分担者(藤原)はく蛍光性部位を持つ複合分子の光機能性物質の開拓を進めた。光伝導性の向上を目指し、BODIPYやフルオレンを有する分子の伝導性塩を作製し、その構造と物性を評価した。中性結晶に比べて遥かに大きな光電流が発生する半導体的な塩が得られた。また、EDT-TTF-BTA単結晶の光電流発生の起源を検討するため、顕微反射吸収分光、光伝導度、時間分解発光分光などの光物性測定を行った。 分担者(森田)は、電子スピン非局在型中性ラジカルであるトリオキソトリアンギュレン(TOT)の誘導体を正極活物質として用いたLiイオン二次電池の開発を行い、従来のコバルト酸リチウムを用いたものよりも大容量で、かつ高いサイクル特性を示すデバイスの作製に成功した。また、TOTが構築する一次元積層構造にアニオン種を導入した混合原子価塩の作製を行い、高導電性を発現することを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
多重不安定性物質の転移を化学的手法によって制御し、実績概要に記述しきれなかった物質を含め、新規導電性分子性固体が開拓されつつある。また、当初最終年度までかかると想定していた極めて合成難易度の高いドナー分子TMTTPの合成経路を確立でき、最終年度に更なる新規分子性導体の開発が可能となった。蛍光部位を導入した新規機能性物質は、光誘起相転移の観測には至っていないが、ほぼ計画通りに進んでいる。電子スピン非局在型中性ラジカルの研究では、高性能二次電池や高導電性物質など分子内自由度を活かした機能の発現に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
比較的小さなπ系を持つドナーを用いて、金属的な挙動を示しながら非傘属的な磁化率の温度依存性を示す物質等が得られており、物質群の枠を広げつつ、とれら特異な挙動を示す物質の本質を解明する。比較的大きなπ系を持つ化合物については、今回新たに開拓したTMTTPの合成経路を応用して類似ドナーを開拓する。また、TMTTPの与える分子性導体について結晶構造を明らかにし、導電性と構造の相関を調べて物質設計の指針へとフィードバックする。蛍光部位を導入した分子については、光誘起相転移を示す物質の開発に向けた更なる分子の改良と各種導電性塩め開拓を精力的に進めると共に、色素増感太陽電池への展開を推進する。TOTの化学修飾に対する高い自由度を活用し、更なる誘導体の合成を行う。特に酸化還元能と自己集合能に着目した分子設計を行い、その機能化を検討する。
|