(1)昨年度に引き続き、系自身の働きかけにより外部環境が揺らぎ、かつ系自身にもその影響がフィードバックされるような、入れ子になった一次元反応拡散系について検討を進めた。3つの定常点をもつ反応拡散系では、系が安定定常点から不安定定常点に遷移しても、しばらくの間は不安定定常点が見かけ上安定に見えるという現象がしばしば観測される。この系の空間非一様性について分散をもとに解析を進めたところ、定常点が安定の時には分散は小さくなるが、不安定になると次第に大きくなり、いわゆる定常点の安定性に従っていることが確認された。この見掛けの安定性は、コヒーレンス・レゾナンスによる過渡的な創発現象である可能性が示唆された。なお、ゆらぎがさらに発達すると系はカオス的なパターンを示すようになるが、これは決定論的なゆらぎがカオスを誘起する興味深い創発現象である。 (2)フラーレン微結晶によるラセン構造の創発について実験的検討を行った。当初発見されたラセン構造のサイズは数十ミクロンであったが、マイクロニードルなどを基板上に静置することにより、フラーレン微結晶の巨大ラセン配列(~mm)の形成過程の直接観察に成功した。脱ぬれに伴い移動する三相線がメニスカス領域にはいると回転モードが発生し、脱ぬれがラセン状に進行した。基板に形成されたラセン構造はフラーレンの微結晶からなる対数ラセンで、動径方向に対し等比級数的な脱ぬれが生じていることを示している。この現象がメニスカス領域で起こることを踏まえ、等比級数的な脱ぬれパターンを形成するシンプルな数理モデルを構築した。 (3)領域全体との連携として、実験研究者のラボ訪問や合同セミナーなどを行い、球状錯体の形成過程や分子デバイス機能とゆらぎとの相関についての議論をすすめた。
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