研究概要 |
本研究では、分子ナノシステムの創発化学における自己組織化の役割を明らかにするために、自己組織化を熱力学的立場から一元的に捉える学理の充実を図るとともに、時空間的ゆらぎの下でのコロイド系の秩序化条件を実験的に探る。本年度は以下の研究を行った。(1)理論:昨年度に引き続いてミニマルモデルである可逆3分子反応(r-GSモデル:U+2V⇔3V)を用いて、決定論的な内因性ゆらぎの創発現象における役割について以下の考察を行った。r-GSモデルで構成される反応拡散系では、系が定常点から不安定定常点に遷移しても系は直ちに不安定化せず、当面は安定なように見えるという現象がしばしば観測される。相空間における軌道のベクトル解析を行った結果、この擬安定状態は系と環境との相互作用に由来するものであることが示された。このことはまた、階層性を持つシステムでは、決定論的な内因性ゆらぎを積極的に利用する(環境と系の微弱な相互作用を制御する)ことにより、系単独では実現しえない状態を作る方法論を示唆するものと考えられる。なお、環境と系との相互作用はエントロピー流によって定量的に議論できる。(2)実験:フラーレン分子(C_<60>)やコロイド粒子の形状因子(球形、非球形)が巨視的構造の創発に及ぼす影響についてさらなる検討を進めた。C_<60>溶液の脱ぬれ系では、基板上にガラスビーズ等を置くことにより、C_<60>微結晶からなる対数ラセン配列形成という階層を超えた構造の創発が一層容易になった。さらに、溶媒蒸発ならびにスティック・スリップ・モーションを考慮に入れたメニスカスのダイナミクスを記述する数理モデルを構築した。同モデルは、対数ラセンの幾何学的構造に特徴的なバンド間隔の等比級数関係を矛盾なく説明することが示された。(3)連携:海外からS,C.Mueller教授、P.Parmananda准教授を招聘し、国内研究者を交え創発過程における開放的な界面の役割やゆらぎについての議論を深めた。
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