非平衡開放系は階層性と創発性の基本であり、普遍性の高い研究課題である。最近、このような系に見られる自己組織化現象で内部揺らぎや外部雑音が重要な役割を果たすことが見いだされた。生まれる構造と生じる物性・機能は互いに密接に関連し、そのため形成原理や雑音の役割の解明は、期待する新機能をもった分子ナノシステムの設計プログラムと密接に結びつき重要である。そこで本研究では、非平衡開放系における内部揺らぎと物性の関連を明らかにするために、散逸構造の非線形揺らぎである時空カオスに注目した研究を行った。特に、液晶電気対流系のホメオトロピック配向系において、南部-ゴールドストーン・モードの効果によって生じるソフトモード乱流を取り上げた。 今年度は主に、ソフトモード乱流の揺動の統計力学的性質、特に拡張したLangevin方程式の形式で記述することを目指した実験・解析系の構築を行った。ソフトモード乱流の揺らぎをLagrange的観点から観測するために液晶サンプル中に混入した微粒子の運動を追跡する実験については、揺動定理を適用するために微粒子に一定外力を加え、高い空間分解能でその運動を追跡できる実験系を構築した。また、その系の実験により、ソフトモード乱流に揺動定理が適用可能であることを明らかにし、さらに揺らぎの強さを温度によって定量化した。ソフトモード乱流の揺らぎの異常拡散の性質により、温度が時間スケール依存して変化することも明らかにした。また、パターンの揺らぎをEuler的観点から観測するために、空間波数ごとの時間スペクトルを得るための実験・解析システムの構築を行った。
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