研究実績の概要 |
本研究は、分子ナノデバイスや量子限界目前の半導体デバイスなどの「粗粒デバイス」を演算要素として持つ新規情報処理アーキテクチャの開拓に関するものである。これまで、主に小規模なアナログ計算および大規模デジタル演算にむけた演算要素アーキテクチャの開拓を行ってきた(パルス伝送路, デジタル位相同期回路, アナログ位相同期回路, メモリ回路, AD変換回路, 小信号の雑音除去回路)。これらの研究は、主に生物が雑音を利用して情報処理を行う仕組みにならい、脳の一部をナノ半導体素子で模擬するというもので、最終的には脳そのものの機能創発を目指すものである(先はまだ長い)。一方、機能としては創発的ではないが、機能性の創発を目指したアーキテクチャに関する研究も重要である。平成24年度は、これらの研究の総まとめとして、既存ロジック回路の電力性能を凌駕する、確率共鳴にもとづく創発的アーキテクチャに関する検討を行った。 ブール代数に基づくロジック演算回路においては、NAND素子があればどのようなロジックも組める。NAND素子の集合体を低電力化する最も有効な方法は電源電圧を下げることであるが、そうすると素子バラツキ(静的雑音)の影響が大きくなり、回路が動作しなくなる。この素子バラツキの影響を、確率共鳴を用いて大幅に緩和できることが平成24年度に明らかになった。このことは、バラツキ精度の高い(CMOSのような)素子だけではなく、分子ナノ素子のような「粗粒デバイス」を用いても、雑音を加えて確率共鳴を起こすことにより、正しい論理演算ができることを意味する。粗粒CMOS素子で構成したNANDゲートの電力は、高精度CMOS素子で構成したそれの30%程度であった。今後、このような粗粒素子のためのより大規模なシステム設計に向けた研究開発にとりくんでいく所存である。
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