研究領域 | 分子ナノシステムの創発化学 |
研究課題/領域番号 |
20111008
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
君塚 信夫 九州大学, 大学院・工学研究院, 教授 (90186304)
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キーワード | 自己組織化 / 非平衡 / 散逸ナノ構造 / イオン液体/水界面 / シアニン色素 / ナノファイバー / 散逸超構造 |
研究概要 |
本研究は、分子の自己組織化に基づき非線形現象ならびにナノスケール散逸構造を生み出すための方法論を開発し、分子システムにおける創発化学を開拓することを目的とする。これまで分子集合化学や超分子化学は熱力学的平衡条件を舞台として展開されてきた。一方、分子システムを用いて創発現象を発現させるための方法論は未開拓である。 そこで、非線形性とエネルギー・物質の流れが協同的に働いてはじめて出現するナノ構造を創製するために、イオン液体-水界面における分子集積現象に着目した。イミダゾリウム塩を構成要素とするイオン液体-水界面においては、濃度勾配に従って界面を隔てたイミダゾリウムイオンの拡散がおこる。ここで、イミダゾリウムイオンと相互作用するアニオン性色素を種々探索した結果、あるシアニン色素を水相に溶解しておくと、(1)イオン液体-水界面で柔軟なナノファイバー構造が形成されること、また(2)このナノファイバーが界面から水相にむけU字型の超構造をとりつつ成長することを,共焦点レーザー顕微鏡を用いて直接観察することに成功した。この成果は、界面を隔てて分子フラックスが存在する非平衡条件下で、熱力学的に安定な構造が形成される自己集合現象がおこる場合、その高次構造が非平衡分子流の影響をうけて制御されることを意味する。すなわち、非平衡条件における熱力学平衡に基づく自己組織化現象は、非平衡プロセスの影響を大きくうけて、マクロな構造パラメーターが改変されるという新しい原理を見出した。この現象は、非平衡条件下における散逸超構造の形成とも呼ぶべき新しい現象であり、その一般化をはかることで、新しい研究フィールドにつながるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非平衡条件をイオン液体-水界面において創り出すこと、また、イオン液体-水界面においては、濃度勾配に由来する分子流(分子フラックス)が存在し、分子流の構成分子を構成要素とする熱力学的な自己集積現象によって、その巨視的構造が非平衡条件(分子流)に制御されることを見出した。非平衡科学と平衡系の分子集合の接点を開拓した成果であり、当初の計画以上に研究が進展したと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
非平衡系における自己組織化の特徴として、分岐現象があげられる。これを達成するために、イオン液体中で形成されるナノ(マイクロ)ファイバーの構造分岐現象について検討する。水溶液中に水溶性高分子やナノ粒子を溶解させ、これらの存在下、ナノファイバー構造に分岐形成が誘発される可能性を探索する。これにより、リニア型のみならずデンドリマオー型のナノ(マイクロ)構造を構築できれば、機能性散逸ナノ構造という機能物質科学の新しい研究領域が創成できるものと期待される。
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