本研究では「金属原子など単核種の自己組織化によるクラスター形成」と「クラスターの超分子的集積化」の2つの自己集積化プロセスを、階層を超えて制御し、新奇な構造・機能の創発を実現することをあざしている。ここでは、「階層的自己組織化」の第1段階に相当する「金属原子の自己集積によるサブナノサイズクラスターの生成」について重点的に検討を行った。これまでの予備的検討において、金のホスフィン錯体を水素化ホウ素ナトリウムで還元して一旦速度論的な生成物(複数のクラスター種の混合物)を形成させたあと、塩化水素で処理すると、トリデ力金クラスターが選択的に生成することを、エレクトロスプレー質量分析による追跡から明らかにしている。そこで、得られたトリデカ金クラスターの分子構造を明らかにするために、本研究補助金で導入したX線結晶構造解析装置で調べたところ、極めて構造的対称性が高い二十面体構造をとることがわかった。このクラスターでは、10個のホスフィン配位子に加えて、二つの塩素イオンが配位子として、トランス位から結合しており、これを足場として2段目の自己組織プロセスに適用することが原理的に可能であり、本研究で最終的にめざす超分子集積構造にむけて有望なビルディングユニットとなる。さらに多分散の金クラスターがトリデカ金クラスターに収斂するプロセスについて、塩化水素以外のプロモーターを用いたコントロール実験を通じて詳細な検討を加えたところ、塩化水素のプロトンと塩化物イオンの両方が必須であることが明らかとなった。
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