本研究では、「自己組織化によるクラスター性金属種の形成」と「クラスターの超分子的集積化」の2つの自己集積化プロセスを、階層を超えて制御し、新奇な構造・機能の創発を実現することをめざしている。昨年度までの研究では、第一ステップのクラスター形成について詳細な検討を行った。一般にクラスターは、配位子存在下で金属イオンを還元することで合成されるが、金属間に働く引力的相互作用が弱いため、容易に核数(nuclearity)変化や骨格組換を起こしうる。したがって、一旦無機骨格が形成された後でも、ある特定の条件下におくと、単核種から直接成長させた場合には得られない特異な構造や性質を有するクラスター種を創発できる可能性がある。我々は、わずかな構造変化や金属数1個の相違が光化学特性などに顕著に反映される核数10個程度のサブナノAuクラスターに着目して検討を行ってきたが、その過程で、ある種のジホスフィン配位型のAuクラスターの骨格のエッチング/成長が酸によって誘起され、結果としていくつかのクラスター混合物がトリデカ金クラスター(Au13)に収束することを見いだした。さらに、エッチング/成長のプロセスを利用してクラスターのポスト誘導化の検討を進めたところ、ある種のジホスフィン配位子を用いた場合には、正四面体が辺を共有してつながったユニークなコア構造を有するオクタ金クラスターが得られることがわかった。この骨格構造は、部分構造を含めてAuクラスターとしては初めての例であり、同じ構成パーツ(配位子)を用いても単核種から直接合成した場合には全く得られない。すなわち、エッチング/成長の両者が関与する創発的なプロセスによって初めて生成する。今後は、これまでの知見を足場に、第二ステップに軸足を移し、「集積体の集積体」へと展開していく。
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