酸化還元により電子伝達可能な物質としてチトクロムcを選び、チトクロムcのアレイを形成し、その電気的特性について調べた。チトクロムcとDNAの混合物を基板上に展開すると、太いファイバー状の構造が得られた。チトクロムc単体の粒子状構造やDNA単体のネットワーク構造と明らかに異なっており、複合体が形成していることがわかった。 この複合体の上にトップコンタクトによるナノギャップ電極を形成した。分子の劣化を防ぐために、電子線、紫外線やレジストプロセスを用いることができない。そこで、独自に開発した傾斜蒸着法を用いてナノギャップ電極を作製した。 電流-電圧特性は強い非線形性を示し、アレニウスプロットは2段階あるいは3段階の活性化エネルギーを示した。電圧依存性の解析から、高温領域の高い活性化エネルギーは、電極のフェルミ準位とレドックス準位の差に起因する注入ポテンシャルであると考えられる。これに対して、低温領域の活性化エネルギーは極めて低く、測定試料によっては、ほとんどゼロとみなせる場合もあった。ヘムの周りの構造は、ペプチド鎖のフォールディングにより良く規定されているので、チトクロムcアレイのレドックス準位は極めて良く揃っている。分子アレイ内のわずかに揺らいだレドックス準位間の多段階トンネリングが起こっていると結論した。このようなポテンシャル分布を実験的に明らかにするため、走査プローブによる絶縁体上ポテンシャル測定の手法を整備した。
|