細胞の極性は,しばしばmRNAの細胞内局在と翻訳制御によって確立される。このようなRNA局在と翻訳の時空間的制御の解明は,発生・細胞生物学上の最重要課題の一つであるが,その分子基盤は良く分かっていない。本研究では,細胞極性,RNA局在,翻訳制御,そしてRNP動態制御を包括的に研究する上で理想的なモデル系である,ショウジョウバエ生殖質(生殖細胞形成に関わるRNAやタンパク質が集積したRNP)の動態解析を進めることで,RNAレベルで行われる制御の普遍的分子基盤の実体解明を目指した。 本年度は,まず,生殖質形成に必須の因子であるオスカー(oskar)のmRNAの局在と翻訳制御の場である母性RNPの構成タンパク質として同定したEdc3について解析を進めた。前年度までに行ったedc3突然変異体の表現型や遺伝学的相互作用の解析結果から,Edc3が足場タンパク質としてoskar RNPの構成タンパク質間の相互作用の安定化や構成因子の入れ替わりを仲立ちしていると予想された。そこで,ショ糖密度勾配遠心法を用いて卵巣ライゼート中でのoskar RNPの構成因子の挙動を解析した結果,oskar mRNAの翻訳制御因子として知られるOrbならびにBrunoタンパク質が,edc3を欠くとoskar RNP複合体から遊離していることが判明した。この結果は我々の仮説を生化学的にも支持するものである。 次に,生殖質因子として同定したPgcの機能について解析を進めた。その結果,pgcを欠く極細胞(始原生殖細胞)では,本来体細胞に発現が限局されている複数のマイクロRNA(miRNA)が異所的に発現しており,その結果,ナノス(nanos) mRNAなど生殖質に集積している母性RNAがmiRNA経路によって分解されていることを明らかにした。
|