本研究は、細胞統御に関わるmRNA結合タンパク質の標的分子の同定と標的分子の機能解析、ならびにシグナル伝達経路によるmRNA結合タンパク質の制御機構を明らかにすることで、mRNA結合タンパク質による細胞統御の分子メカニズム、ならびにシグナル伝達経路とRNA制御プログラムのクロストーク機構の解明を目的とするものである。 本年度は分裂酵母の細胞質分裂に必須の役割をするミオシンessential light chainをコードするcdc4 mRNAとRRMタイプRNA結合タンパク質であるNrd1の関係を発見した。Nrd1の過剰発現はcdc4変異体の温度感受性と細胞質分裂異常を回復する。このメカニズムとして、Nrd1はCdc4 mRNAと結合し、mBNAを安定化することにより、cdc4変異体の細胞質分裂異常を回復することを証明した。しかも、この結合にはCdc4 mRNAのcoding配列内に存在するUCUUの繰り返し配列が重要であることも明らかとした。さらに、分裂酵母のERKホモログであるPmk1 MAPキナーゼがNrd1をリン酸化することにより、Nrd1とmRNAの結合を負に制御することを明らかにした。これらの結果と合致する所見として、Pmk1 KOはCdc4 mRNAを安定化し、cdc4変異体の温度感受性を回復する。しかも、Pmk1 MAPキナーゼの活性化は細胞周期特異的であり、Nrd1のリン酸化状態もPmk1 MAPキナーゼの活性化に呼応する時期に生じた。さらに、Nrd1のリン酸化がピークとなる時期にCdc4 mRNAの発現レベルは最も低下することが明らかとなった。これらの結果は、細胞質分裂を制御する鍵となるミオシンmRNAがMAPキナーゼによるmRNA結合タンパク質のリン酸化調節により制御されるという世界で初めての発見であり、mRNA結合タンパク質の新たな生理機能の解明に加えて、mRNA結合タンパク質とシグナル伝達経路とのクロストーク機構を提唱するものであり、RNA制御プログラムの解明に貢献する重要な知見である。
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