研究実績の概要 |
真核生物のゲノムは染色体として細胞核に収納され継承される。本研究の目的は、遺伝情報の正確な継承を保証する時空間「場」の特性を明らかにし、継承のメカニズムを分子レベルで理解することにある。これまで、蛍光タンパク質ライブラリーによる局在解析やDNAマイクロアレイによる発現解析をもとに、遺伝情報の継承に関わる蛋白質群および遺伝子群の検索を行ってきた。この一環として、本年度は、ヒトの細胞核膜と染色体の相互作用について解析を行った。その結果、ヒトの核内膜タンパク質 Lamin B Receptor (LBR) がヒストンH4の特殊な翻訳後修飾(20番目のリジンのメチル化)に結合することを明らかにし、核膜近傍でクロマチンの凝縮が起こる分子モデルを提唱した(Hirano et al., 2012, J. Biol. Cell)。また、分裂酵母において、テロメアと核膜の相互作用を担う一群の Bqtタンパク質を解析した。テロメアと核膜の結合が細胞周期で制御される仕組みを分子レベルで解析した結果、細胞分裂の間期にはテロメアタンパク質 Rap1が核内膜タンパク質 Bqt4に結合することによって、テロメアを核膜につなぎ止めているのに対し、分裂期にはRap1がリン酸化されることにより、Bqt4との相互作用を無くし、核膜から離れることを明らかにした(Fujita et al., Current Biology, 2021)。また、減数分裂期にテロメアと核膜の結合を担うBqt1-Bqt2タンパク質の結晶構造解析を目的として、Bqt1-Bqt2タンパク質複合体を精製し、その生化学的特性を報告した(Ichikawa et al., 2013, Protein Expression and Purification)。
|