計画研究
当該年度は、以下の二つの研究を主に推進し、遺伝情報の収納と発現のダイナミクス、ならびにその作用因子について考察した。①[細胞核内イオン環境の変化と細胞分化] 系のイオン濃度を変化させることでクロマチンの凝縮・脱凝縮を誘導することができる。そこで今回、各種濃度の塩水溶液をマイクロインジェクション法によってマウスES細胞の核に直接注入して細胞核内のイオン環境を変化させ、どのような影響が現れるかを調べた。その結果、特定の塩水溶液を注入すると、その溶液のイオン濃度によっては細胞分化が有意に促進されることが明らかになった。現在、この現象にクロマチンの局所的な凝縮が関与しているか否かについて継続的に解析を進めている。②[遺伝子の活性変化と核内局在] マウスES細胞の肝細胞への分化に伴う遺伝子の核内局在の変化についてFISH法を用いた解析を行った。対象は、未分化関連遺伝子(Oct4、Sox2、Klf4、Nanog)と肝細胞特異的遺伝子(Cyp7α1、Pck1、Tat、Tdo2)である。前者はいずれも分化誘導により発現が抑制され、後者は活性化する。解析の結果、肝細胞における遺伝子の核内配置は発現活性よりも遺伝子密度やGC含量によって規定されていることが強く示唆された。これは、今回解析対象とした特徴的な遺伝子でも、それらの核内配置を規定する主因子は、通常の遺伝子のそれと同様であることを意味している。その他、我々の研究室で開発した人工ベントDNA T20(負の超らせんを擬態した構造をもち、高度な転写活性化能をもつ)の転写活性化には、核内局在を介した機構は介在しないことを解明した。以上に加えて、DNAメチル化のDNA高次構造への影響ならびに遺伝子発現における環境応答制御因子としての役割についても解析し、予備的ではあるが興味深い知見を得た。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究の代表的な成果を挙げると次のようになる。(1)種々の真核生物ゲノムDNAの柔軟性マップを完成させた。(2)未解明であった間期クロマチンの三次元(3D)構造を出芽酵母を用いた解析で明らかにし、さらに3D構造を規定する分子基盤を解明した。(3)マグネシウムイオン存在下では同じDNA配列をもつヌクレオソーム同士が優先的に集合すること(ヌクレオソームの自己集合)を明らかにした。(4)マウスES細胞核内の特定イオンの濃度を上昇させると、細胞分化が誘導されることを見出した。これらの成果は、いずれも遺伝情報収納の基本原理または基本メカニズムに関係するものであり、「遺伝情報場」の理解のために、当初計画した研究が概ね順調に進捗していることを示している。
最新の成果として、DNAメチル化の影響がDNAの高次構造や物性に及ぶことを見いだした。DNAのメチル化は遺伝子の収納と発現に深く関わっている。そこで、「遺伝情報収納のダイナミクス」における最終解析課題として、DNAメチル化とDNA高次構造・物性の関係、ならびに両者と遺伝子収納の関係について解析するつもりである。
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