ES細胞の分化誘導は、従来、外部環境(培養条件)を変化させることで行われてきた。しかし我々は、平成23年度までの研究で、細胞核の内部環境の変化が細胞分化の誘導因子になることを明らかにしていた。具体的には、マウスES細胞の核に1価、2価、または多価の各種カチオン水溶液をマイクロインジェクション法によって注入してその影響を調べた。その結果、ある濃度のマグネシウムイオンとスペルミンに細胞分化を促進する効果があることが分かった。条件によっては、約15%以上の細胞が分化することが明らかになった。なお、マイクロインジェクションを行わない場合、マウスES細胞が偶発的に分化する割合は2%程度であった。今年度は、マイクロインジェクションによる溶液の注入量を測定すること、用いているマウスES細胞の細胞核の体積を明らかにすること、そして、細胞分化が誘導された後の細胞系譜を明らかにすることを目的として研究を進めた。注入量の測定には、放射標識されたATP溶液を用いた。これを細胞核にマイクロインジェクションして、その放射能を測定して注入量を求めた。また、細胞核の体積は、ヘキスト染色した細胞の核を三次元イメージング法で解析して求めた。これらにより、細胞核の体積とカチオン注入量との関係を明らかにすることができた。分化後の細胞系譜については、各種分化マーカーを用いて解析した。その結果、栄養外胚葉への分化が多く見られるが、その他の胚葉にも分化していることが明らかになった。現在、これらの現象とクロマチンの関係について解析を進めている。
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