計画研究
ゲノムDNAは高次に折り畳まれてクロマチン構造を形成し、染色体として細胞核に収納されている。本研究では染色体の基盤構造であるクロマチンを遺伝情報場の本体として定義し、クロマチンにおける遺伝子発現、DNA複製、DNA組換え、DNA修復などのメカニズムの解明を目指している。本年度では、クロマチンの最小構造ユニットであるヌクレオソームに着目し、昨年度に引き続き種々のヒストンバリアントやヒストンの化学修飾をミミックした変異体を含んだヌクレオソームの結晶化を行った。それらのヌクレオソーム結晶のX線回折データを、SPring8およびPhoton Factoryの高輝度放射光を利用して収集した。そして、15種類のヌクレオソームの立体構造解析に成功した。それらは、ヒト細胞の主要なヒストンH3バリアントである、H3.1、H3.2、H3.3を含むヌクレオソームが3種類、ヒトのヒストンH3.1およびヒストンH4のヒストンフォールドドメインに存在するすべてのリジン残基を、それぞれアセチル化をミミックしたグルタミンに置換した変異体ヌクレオソームが11種類、そしてセントロメア特異的なヒストンH3バリアントである、CENP-Aを含むヌクレオソームが1種類であった。変異体ヌクレオソームの解析から、これらのアセチル化をミミックした変異がヌクレオソームに局所的な構造変化を与えることが分かった。そしてCENP-Aヌクレオソームの解析から、セントロメア領域特異的なヌクレオソームの構造的特徴を明らかにした。また、バクテリアのセントロメア結合タンパク質候補である、YncEのターゲットDNAとの複合体の立体構造解析にも成功した。これらの解析によって、染色体の機能領域を形成する基盤構造の解明に重要な知見を得ることができ、クロマチンレベルでの遺伝情報場の理解を進めた。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、ヒトのヒストンH3バリアントおよび変異体を含むヌクレオソームの立体構造を15種類も決定することに成功した。これは当初の計画を大幅に上回る成果であった。中でも、CENP-Aを含むヌクレオソームの解析の成功は、世界的にも高く評価される重要なものであり、その成果はNature誌に掲載された。
今後は、ヒストンH3のバリアントのみならず、機能的なクロマチン形成に重要なH2AやH2Bのバリアントを含むヌクレオソームの解析に研究を発展させることにより、遺伝情報場としてのクロマチン機能構造の解明を目指す。
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