遺伝情報場の実体を理解するために、染色体の基本構造単位であるヌクレオソームの解析を、さまざまなヒストンバリアントを含むヌクレオソームの立体構造解析を中心に行ってきた。2012年度までに、精巣特異的ヌクレオソームや、セントロメア特異的CENP-Aヌクレオソームの立体構造を決定することに成功している。ヒストンバリアントに加えて、ヒストンの翻訳後修飾も機能的なクロマチン構築に重要な役割を果たす。本年度は、転写の際に重要であると考えられているヘキサソームの再構成を行い、その溶液構造解析をX線小角散乱法によって行った。通常のヌクレオソームでは、2分子のヒストンH2A-H2Bダイマーと2分子のヒストンH3-H4ダイマーが会合してヒストン8量体を形成しているが、ヘキサソームでは、ヒストンH2A-H2Bダイマーが1分子しか取り込まれていない。再構成ヘキサソームを用いた生化学的解析および構造生物学的解析の結果、ヘキサソームでは、およそ40塩基対ほどのDNAが、非対称的にヒストンから遊離していることが明らかになった。また本年度は、ヌクレオソーム構造および機能の解析に加え、多様なヌクレオソームが形成される機構を理解する目的で、新規ヒストンシャペロンの解析を行った。その結果、ヒトSpt2およびFANCD2が、ヒストンをDNA上にロードしてヌクレオソームを形成する活性を有する、新規ヒストンシャペロンであること発見した。これらの結果から、ヌクレオソームの動的性質と構造多様性が、遺伝情報「場」の発現、維持、継承において機能する基盤情報を提供することができた。
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