当該研究により、ヘテロクロマチンの主要な構成因子であるHP1とHP1結合タンパク質の一つであるPOGZとの結合が、M期の進行に必須なリン酸化酵素であるAuroraB複合体の局在と活性を制御していることを、明らかとしてきた。具体的には、AuroraB複合体はHP1との結合を介して分裂期前期に染色体腕部に局在し、POGZがHP1にAuroraB複合体と競合的に結合することにより、AuroraB複合体はHPIから解離して、結果として染色体腕部から解離し、活性化するという結論に至った。当該年度の解析により、HP1と結合できないAuroraB複合体も分裂期中期にセントロメアに結合することができることから、必ずしもこの複合体が腕部に結合することが分裂期中期のセントロメア局在に必要ないことが明らかとなった。また、POGZは、ハエのインシュレータータンパク質と相同性があり、AuroraBの制御で見られたメカニズムは、転写活性のヘテロクロマチンからの保護など、遺伝子発現の制御機構にも寄与していることが予想された。さらに、これまでに同定したHP1結合因子の染色体上の局在位置をChIP-seq法により解析する系を立ち上げた。タグをつけたHP1結合タンパク質安定発現株を用いた系、また、特異抗体を用いた系を用いて、10種類のHP1結合タンパク質のマッピングを行った。同時にH3K9me3、H3K27me3など、抑制的なエピゲノムマークのマッピングに成功した。これらを基盤に、当該研究で.発見したX染色体の不活性化に関与するHBiX1-SMCHD1複合体が、1)不活性X染色体に濃縮されていること、2)H3K9me3領域への局在にHBiX1がHP1を介して、H3K27me3への、局在にSMCHD1が関与していること、を明らかにした。
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