研究領域 | 神経系の動作原理を明らかにするためのシステム分子行動学 |
研究課題/領域番号 |
20115002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯野 雄一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 教授 (40192471)
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キーワード | 脳・神経 / 神経科学 / 行動学 / 線虫 / 化学走性 |
研究概要 |
1、連合学習の機構 線虫は塩(NaCl)の濃度を記憶し、餌がある状態で経験した塩濃度に寄っていき、飢餓状態で経験した塩濃度から逃げることを見いだしている。この機構についてさらに研究を行った。NaClはASER感覚神経で受容されるが、経験塩濃度によって、同じ塩の濃度にさらされてもASERの応答が異なることがわかった。さらに下流のAIB神経の応答を調べると、AIBの応答は経験濃度の高低によってほぼAll or Noneの形で応答を変化させた。行動定量化の結果によっても、経験塩濃度によって同じ塩に対するピルエット行動が逆転することがわかった。AIBはピルエット行動を促進することが知られているので、以上の結果は経験塩濃度の情報がASER感覚神経に記憶されており、ASERの出力が変化することにより行動が変化するという可能性を支持している。 2、匂いの濃度による行動変化の行動機構 同じ匂いでも、濃度が濃いと感じ方が変わることはよく経験する現象である。線虫でも、多くの匂い物質について、濃度が低い場合には線虫が誘引され、濃くなると忌避することが観察される。九州大学の石原研究室と共同研究によりこの神経機構の研究を進めた。特に行動機構の部分は全面的に担当した。濃さを変えて、匂いに対する線虫の行動をワームトラッカーで定量した結果、薄い匂いに対してはピルエット機構と風見鶏機構を併用して匂いに近づいていくが、濃い匂いから逃げる場合には、ピルエット機構を主に用いていることがわかった。面白いことに、この際、風見鶏機構は匂いに近づく方向に働いており、矛盾した動きが混在していることがわかった。薄い匂いと濃い匂いとで異なる感覚神経が使われることもわかっており、これが行動に反映されているものと推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
共同研究の論文がNature Communications誌に採択され、塩濃度記憶に関する研究も分子、神経活動、行動機構の各内容を連ねた形でまとまり、現在投稿中で、インパクトの高い雑誌に採択されることが期待できそうである。
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今後の研究の推進方策 |
神経回路の介在神経レベルでのネットワークの動作がまだ十分解明できていない。この部分の理解が化学走性とその可塑性の理解には不可欠であるが、予想以上に難しいことが分かった。今後はここに重点を置き、各方面からのアプローチにより感覚神経回路全体の理解に至りたい。
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