脳機能を支える神経回路パターンは長い進化の過程で脳機能による淘汰のフィードバックを受けており、神経回路の発生メカニズムは、脳の機能発現を最適化するようにデザインされている。神経回路の機能と、それを形成するメカニズムの両者を有機的に理解することが必要であると考える。本研究は、ショウジョウバエの匂い記憶中枢であるMushroom body (MB)をモデルとして、神経経回路形成と匂い記憶形成機構の統合的な理解をはかる。ショウジョウバエの匂い記憶形成において中心的な役割を担っているmushroom body (MB)の形成機構と、そこにおける長期記憶形成の分子メカニズムを明らかにする。 1) 長期記憶形成に伴い発現する遺伝子の同定 匂いと電気ショックを連合させた忌避記憶学習において記憶の前後でMBからRNAを抽出し、記憶形成により転写される遺伝子を同定する。今までの方法をさらに検討して、1つのMBからRNAを抽出し、リニアに増幅する事によって、シーケンサーで解析できうる量のcDNAを合成する手法を確立した。配列解析の結果を待っているところである。 2) MB形成に機能する遺伝子群の同定 MBの形態形成に機能する様々な転写因子、細胞認識に関わる因子などを選別し、その遺伝子に対応するヘアピンループRNAをMBに発現させ、表現型を観察した。現在までに1200程度の遺伝子の解析を終え、主に軸索のガイダンスに特有の変異のある未発表の遺伝子をいくつか同定した。 3) イメージングによる神経機能の解析 記憶に伴う遺伝子機能を解析するためにイメージング手法の条件検討を行っている。GCaMP3を使うことにより十分なシグナルを得られることがわかった。個体差を少なくする方策を検討中である。 4) MBの出力を受ける神経の機能解析 MBから入力を受けていると思われる一対の神経細胞の記憶における機能を解析した結果、記憶の固定の過程に必要であることが明らかになった。
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