計画研究
ショウジョウバエの嗅覚神経系の3次ニューロンであるキノコ体は匂い記憶形成の中枢であると考えられている。(1)長期記憶のトランスクリプトーム解析キノコ体神経のトランスクリプトーム解析により、長期記憶形成に機能する分子機構の解析を進めている。(2)Caイメージングによる神経活動の解析GCaMP3等をキノコ体神経で発現させ2光子顕微鏡で観察することにより1細胞レベルでの神経活動の記録が可能となった。異なった匂い刺激により異なったグループのケニヨン細胞が興奮し,両者間で重複はあまり観察されない。この実験系を用いて1細胞レベルで記憶痕跡を探っている。そのために検出条件、電気刺激条件の最適化の研究を行い,あわせて、データ解析技術の検討も行った。(3)CREBレポーターによる長期記憶痕跡の解析長期記憶形成にはCREBが必要である。CRE配列の下流にGFPを結合した遺伝子を導入したところ、間隔をあけた繰り返し学習によってCREリポーターシグナルは上昇したが、1回の学習では上昇は観察されなかった。cAMPシグナルを亢進する薬剤により大幅な上昇が観察されたが、抑制型CREBの発現により上昇は抑制された。本リポーターシグナルの上昇はCREBに依存し、長期記憶の痕跡であることが示唆された。(4)キノコ体神経軸索のアクチン繊維ダイナミクスに必要な遺伝子sickie Sickieはコフィリンを介してアクチン繊維ダイナミクスを調節し、キノコ体の発生と記憶形成に必要であることを示した。(5)キノコ体形態形成遺伝子キノコ体特有の軸索走行パターンを制御する因子の探索を行っている。鍵となる転写因子を同定し、その下流遺伝子をマイクロアレイで解析し、多くの候補遺伝子を得た。
2: おおむね順調に進展している
長期記憶のトランスクリプトーム解析では、微量サンプルから信頼性のあるデータを得ることに苦労したが、いくつか再現性のある結果が得られている。CREBを指標とした記憶痕跡の解析は、外来遺伝子発現系(Gal4-UAS)を導入したことにより、様々な遺伝子を発現することができるようになり、機能解析が進むものと考えられる。
GCaMPを用いることにより、1細胞レベルでキノコ体の内在神経の活動をモニターできるようになった。2光子顕微鏡を用いて軸索束の光学的横断面を観察しているので一視野で1400細胞を網羅することができる。全体の2/3強であるが、γ神経の寄与が全く無い。そのためにはより深部の軸索束の縦断面を観察する必要がある。これらの細胞体は脳の後部に集まっている。細胞体をイメージングの対象にする事も可能かもしれない。これらのためには高速でZ軸に沿ってレンズを動かし、立体画像を作成する必要があり、そのためのセットアップを行う。当面は、記憶痕跡が観察される検出条件を見つけ出すことに注力する。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Development
巻: 138 ページ: 983-993