研究領域 | 神経系の動作原理を明らかにするためのシステム分子行動学 |
研究課題/領域番号 |
20115006
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研究機関 | 財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
齊藤 実 財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 参事研究員 (50261839)
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研究分担者 |
宮下 知之 財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 主任研究員 (70270668)
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キーワード | 遺伝子 / 行動学 / シグナル伝達 / 老化 / 脳・神経 |
研究概要 |
嫌悪性匂い連合学習では匂いと電気ショックを同時に与えることで、匂いに対する忌避性が増大する。"取り出した培養脳神経系"を用いて、Ca^<2+>動態を指標に匂い中枢antennal lobe(AL)と学習記憶中枢の一つキノコ体(MB)間のシナプス伝達機構と、腹側神経節(VNC)刺激との連合入力に応じて形成されるシナプス伝達促通Post associative enhancement(PAE)の神経生物学的生成機序を解析した。その結果AL-MB間シナプス伝達はアセチルコリン受容体(AChR)を介すること、腹側神経節を起点とするMBへの入力はNMDA受容体(NR)を介することを見出した。さらにAL-MB間PAEはAL-MB間シナプス伝達の頻回刺激では形成されず腹側神経節刺激との連合入力が必須であること(連合性)、PAEはAL-MB間シナプスで起こるが腹側神経節を起点とするMBへの入力シナプスでは起こらないこと(シナプス特異性)、また形成後のPAEはAL刺激の繰り返しにより消失すること(持続性)といった特徴を持つことを明らかにし、PAEの形成にはAChR、NRいづれも必須であることが分かった。匂い連合学習ではD1ドーパミン受容体(DopR)の活性化が必須である。また腹側神経節からMBへの入力はドーパミン受容体を介していると考えられているが、DopR変異体、ドーパミン受容体阻害剤の投与いずれにおいても腹側神経節刺激に応じたMBのCa^<2+>応答は正常であった。にもかかわらず上記PAEの形成にはやはりDopRが必要であった。さらに興味深いことにドーパミン刺激を与えると、それのみで連合入力が無くともAL-MB間シナプスでPAEが観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝学的手法と薬理学的手法を組み合わせることで当初の予定通りPAEの発現機序を受容体レベルで明らかにすると共に、連合性、シナプス特異性、持続性などで学習記憶との対応付けができ、さらに齟齬を見出し、これらの結果をもとに論文を執筆しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
匂い条件付け学習記憶の成立過程では電気ショックを与えずとも、キノコ体に投射するドーパミン神経を刺激することで、ドーパミン刺激と同時に与えた匂いに対する忌避性が増大する。このことから電気刺激情報はドーパミン刺激によってのみキノコ体に伝達されると考えられていたが、ALとVNCの連合刺激によるAL-MBシナプスのPAE形成における連合性VNC入力にはNRが必要条件として働いていることが示された。その一方でDopRの活性化がPAE形成の十分条件として働くことも分かった。こうした齟齬を解決するため、AChR,NR,DopRがどのような相互作用を介してPAE形成に関与するのか、ドーパミン神経の活性動態の解析を取り込んで明らかにしていく。
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