研究概要 |
当研究領域の計画研究班である飯野班と共同して,増田と大久保が線虫の移動行動のデータ解析を行った.特に,短い時刻の間に起こる線虫の移動について,その確率分布を解析した.さらに,ランダム・ウォークに基づく移動行動のモデルを構築し,数値計算を行い,実データと定性的に符合することを確認した.これらの成果は査読有の論文として発表予定である. 次に,生物の移動行動解析全般に寄与するために,確率過程の数理解析手法について,その基盤を整えた.特に確率過程に特有なゆらぎやポンプカーレントを扱う方法を大久保が開発し,2本の査読有の論文として発表された. 次に,線虫は302個のニューロンからなる.各ニューロンは固有の機能をもちつつ,かつ,神経系の中での位置に応じる役割も果たしていると考えられる.例えば,感覚ニューロンは,神経系の位置としても上流に位置し,介在性ニューロンや運動ニューロンに信号を伝達していると考えられる.こういった信号処理を明らかにするために,線虫のニューラル・ネットワークの構造に基づく解析手法が有用であると考えられる.そこで,増田が,化学シナプスのように枝に方向性がついているネットワークにおける,ニューロンの重要性を計量化する手法を開発した.信号がネットワーク全体に伝わることを,集団遺伝学で使われる固定という概念として定式化できる.あるニューロンから信号の伝達が始まるときに固定が起こる確率を,そのニューロンの重要性であると定義した.その結果の一部は査読有論文誌に発表され,現在も,解析が進行中である.
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