研究概要 |
飯野班と増田,大久保が共同して,線虫の短時間の移動行動のデータ解析と数理モデリングを発展させた.具体的には,短時間のカーブの大きさの分布がべき分布に従うことを明らかにし,それが,ニューロンの除去,ピルエット前後のデータの除去,といった擾乱に対しても頑健に見られる現象であることを示した.数理モデリングについては,乗算的ランダム・ウォークが,ARモデルといった伝統的な時系列の数理モデルと比較した上でもデータをよく説明することを明らかにした. ニューラル・ネットワーク,あるいは,より一般的に,細胞のなすネットワークがどのようにノイズを軽減しているかを知ることは,日常的にノイズにさらされている生物が適切な信号を検知,処理し,行動に結びつける機構を知ることにつながる.増田は,この問題に対する一般的な数理モデリングを行い,ネットワーク構造の関数として,ノイズの軽減度合いを表す関係式を得た.本成果は,例えば,概日リズムを生成する視上交叉核のニューラル・ネットワーク,周期的な心拍を生み出す心筋細胞のネットワークなどに適用可能である.これらの例に対しては,時計としての正確度を,ネットワーク構造の関数として与えたことになる.また,シグナル伝達系への応用も考えられる.本研究成果は,分子行動学の範疇に限定されない意味での生物学への広範な寄与が期待される. 化学走性において物質の濃度差を検出することは重要であるが,細胞単位のような小さなスケールでは,濃度に大きなゆらぎが存在することが指摘されている.このゆらぎの問題や近年の1分子計測技術の発展などにより,例えば一定時間内に生じた化学反応の回数の詳細な統計を計算する必要性が出てきた.この統計性に関する研究は計数統計とも呼ばれる.大久保は,周囲の環境が時間的に変化するようなシステムに対して,計数統計を数値的に計算する枠組みを構築した.
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