本研究は、マウスのGSC(配偶子幹細胞)である精子形成幹細胞と、それを制御するニッチ細胞、及びニッチの場の実体を解明することを目的として研究を行っている。 本年度は、GSCを含む「未分化型精原細胞」のなかの亜集団の、精巣内での挙動と性質を、遺伝子発現と形態の詳細な検討、ライブイメージング法およびパルス標識法を用いて解析した結果、以下の知見を示唆する結果を得た。 1. マウス未分化型精原細胞は、細胞の形態(何個の細胞が合胞体を作って連結しているか)と遺伝子発現(GFRalpha1およびNgn3の発現)による階層性を有している。 2. 連結していないAs細胞、かつGFRα1陽性細胞が、最も自己複製する確率が高い。 3. しかし、少し分化した細胞(連結した細胞ないしNgn3陽性細胞)も自己複製能を保持しており、連結細胞の「断片化」や遺伝子発現の「逆もどり」により自己複製モードに戻ることが出来る。 4. 精子形成障害後においては、定常状態に比べて、分化に向かった細胞が幹細胞モードに戻る頻度が上昇し、速やかな再生を実現する。 以上の結果は、1971年に提唱されて以来定説として信じられて来たモデル「Asモデル」に修正を加えるものであり、ほ乳類精子形成の幹細胞のあり方に一石を投じる。また、広く幹細胞研究一般に対しても、幹細胞とは何か?どのようにして組織恒常性が保たれるのか?といった根源的な問いに対して重要な示唆を与えるものである。
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