研究概要 |
本研究は、マウスのGSC(配偶子幹細胞)である精子形成幹細胞と、それを制御するニッチ細胞、及びニッチの場の実体を解明することを目的として研究を行っている。22年度は以下の成果を得た。 (1)マウスGSC集団の持つ階層性と可逆性の発見(Nakagawa et al., Science 2010):幹細胞は限定された少数の細胞ではなく、主に自己複製する細胞と分化に方向づけられているが自己複製能を維持している細胞が、お互いの状態を行き来することによって集団として自己複製と分化細胞の供給を行なっていることを見いだした。1971年に提唱された定説を修正するものである。 (2)マウスGSCが頻繁に入れ替わることの発見(Klein et al., Cell Stem Cell 2010):パルス標識されたGSCの長期間にわたる追跡の結果、「GSCは厳密な非対称分裂を繰り返して長く存続する」という、古典的な幹細胞モデルが否定された。マウス精巣でGSCは、次々と消え(幹細胞としての機能を失い)ては、周辺の幹細胞から生まれた新たな幹細胞によって置き換えられていた。さらに、この置き換えが確率論的(ストカスティック)に起こること、置き換えの頻度は1-2週間程度と予想外に早いことが数学的に示された。従来の考え方とは違う、GSCの柔軟な姿である。
|