研究概要 |
精原細胞移植のドナーにあらゆる成熟段階の個体を利用するためには、各成熟段階の精巣構造、さらにはそこに含まれる精原細胞の特徴を理解することが重要である。しかし、従来の研究対象は初回成熟に至るまでの精巣に限られ、一旦成熟した精巣の再成熟過程に関する知見は乏しい。本年度は、多回産卵型サケ科魚類のニジマスを材料に用いて、再成熟過程における精巣の形態的・機能的変化を解析した。実験魚には精原細胞で特異的に蛍光を発するvasa-OEP遺伝子導入ニジマスを用い、排精を確認した日から0,1,3,5,7,9,11か月目に精巣を採取した。得られた精巣の一部は、組織切片を作成し、抗GFP抗体と細胞分裂マーカーである抗リン酸化ヒストン3抗体による免疫染色を行い、A型精原細胞(ASG)の局在とその増殖能を調べた。残りの精巣組織は、酵素処理により分散を行った後、セルソーターによりGFP蛍光を指標にASGを単離した。得られたASGは500細胞ずつ宿主腹腔内へ移植し、各ASGが持つ宿主生殖腺への生着能を調べた。組織学的観察の結果、排精後0-5か月の精巣では精小嚢内に精子とASGが認められた。7か月目には排精が終了し、精小嚢内に残っていた精子の除去が始まった。9-11か月目の精巣では、次の産卵期に向けた精子形成が進行していた。各成熟段階におけるASGの移植能は、0-1か月目において高い値を示したが、3-5か月目においてその移植能は大きく低下した。その後、7か月目においてASGの移植能が回復し、9か月目まで高い移植能を維持した。ASGの増殖能は、0-5か月目において低い値を示したが、7か月目から増殖を開始し、11か月目まで高い増殖能を維持した。以上の結果より、ニジマスの再成熟過程における精巣形態の変化に伴い、ASGの細胞形態はほとんど変化しないものの、その機能は大きく変動することが明らかとなった。
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