研究領域 | 活性酸素のシグナル伝達機能 |
研究課題/領域番号 |
20117003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浦野 泰照 東京大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (20292956)
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キーワード | 蛍光プローブ / 活性酸素種 / 過酸化水素 / α-ジケトン / カルセイン / フルオレセイン / 細胞内滞留性 |
研究概要 |
本年度はまず、昨年度までに開発に成功した過酸化水素蛍光プローブNBzFを用いて、ヒト扁平上皮がんA431細胞に対するEGF刺激で発生する細胞内過酸化水素のイメージングを長時間にわたって観測することを試みた。その結果、NBzFは30分程度で細胞外へと漏れていってしまい、細胞内プローブ濃度の大幅な減少による感度の低下と、生成物の漏れによる細胞外蛍光強度の上昇が顕著に見られることが明らかとなった。そこで、より細胞内滞留性に優れたプローブとして、カルセインを分子骨格とする過酸化水素蛍光プローブBzCaを設計・合成した。BzCaは、NBzFとほぼ同等の優れた過酸化水素との反応速度、選択性を有し、過酸化水素との反応で約100倍の蛍光強度上昇を示すことが確かめられたため、これを用いた長時間生細胞イメージングを行った。その結果、細胞外へのプローブの漏出は1時間を超えてもほぼ見られず、微量の過酸化水素生成の数時間にわたるライブイメージングが可能であることが明らかとなった。さらにプローブを用いて、EGF刺激によるA431細胞内の過酸化水素生成を詳細に検討したところ、同一培養ディッシュ内であっても、細胞環境によって過酸化水素生成が多い細胞塊と少ない部分が存在することも明らかとなり、過酸化水素の細胞内シグナル分子としての機能を示唆するデータを得ることに成功した。 さらに本新学術領域研究の外部に対する啓蒙活動の一環として、生物系研究者を対象とする有機小分子蛍光プローブの技術講習会を開催し、午前中に蛍光プローブの分子設計・合成と、細胞・動物系へのアプリケーションまでをカバーする講義を行った。午後は、実際のプローブを用いた生細胞観察実習を行い、化学プローブを活用したイメニジングを行う際の注意点、TIPSなどを実地で指導、解説した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の大きな目標であった過酸化水素プローブの開発が完了し、また細胞内滞留性プローブの開発にも成功したため、微量の長時間にわたる過酸化水素イメージングが可能となった。また生物系研究者への啓蒙活動として当初から予定していたプローブ講習会を開催し、講習と実地演習を行うことで、多くの参加者から高い評価をいただくことができた点は、大きな成果と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
硫化水素プローブに関しては、プローブ動作原理の策定に思いの外時間がかかっているが、どうにか一つの方策が決まりつつあるので、この方向で研究終了までにプローブの開発を完了させる予定である。さらに、細胞内局所で発生する微量の過酸化水素生成を検出すべく、SNAPタグと開発した過酸化水素蛍光プローブを組み合わせた、全く新たなイメージング技術の確立と、蛍光寿命をパラメータとする新たなイメージングプローブの開発に関する研究も鋭意遂行し、領域内研究者と共同して各種イベントのライブイメージングに挑戦する。
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