研究概要 |
一酸化窒素(NO)による細胞間シグナル伝達の機序と制御系を解明することを目的とした本研究は,これまでニトロソ(SNO)化合物に着目し研究を行ってきた.隣接細胞へのNOの伝達は,これまで考えられてきた拡散によるもの以外に,SH基を有するアミノ酸(主にシステイン)をキャリアーとして,アミノ酸トランスポーターを通じて行なわれる経路を見出してきた.この経路は,トランスポーターの存在を必要とするため,シグナル伝達の方向性を生み出すことができることが,拡散による伝達とは大きく異なる点である.さらに細胞内へ取り込まれたSNO化合物は他のタンパク質をSNO化するためのドナーとして使われるが,細胞内への過剰なSNO化合物の流入はストレスとなり,細胞障害性に働く.アミノ酸トランスポーターは競合阻害以外にアミノ酸流入の制御を行なわないため,SNO分子の増大が直接,隣接する細胞に伝わってしまうためである.SNO化合物は細胞内で複数の代謝系酵素により不活化されていることが知られてきたが,本研究課題では新たなSNO化合部の代謝酵素を同定した.この酵素系は,とりわけ過剰なSNOストレスの防御系として作用していることが明らかとなった.例えば,血管内皮細胞は過剰なSNOストレス暴露により細胞間接着が減弱するが,これは細胞膜上の接着分子に対してSNO化合物が障害的に作用することが原因となっている.新規のSNO化合物代謝酵素活性は,血管内皮細胞における防御系として重要であることも明らかにした. 細胞間のシグナル伝達モデルとして血管系に着目し,内皮細胞から産生されたNOが血管平滑筋細胞において引き起こす作用を解析することから,組織内におけるNOシグナル伝達の効果を検討した.その結果,チオレドキシンを介した抗酸化機構に対して促進・抑制の制御因子として働いていることが明らかにされてきた.
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