1.マウスの血管内皮において、内皮型NO合成酵素(eNOS)の活性には、太い動脈(大動脈)と抵抗血管(腸間膜動脈)の間に明らかな差異があり、後者において有意に抑制されていることを明らかにした。このことは、我々がこれまで指摘してきたeNOSの血管径による機能分化(大動脈ではNO合成酵素として、抵抗血管ではEDHF合成酵素として働いている)をよく説明する。 2.上記の分子機構についてさらに検討した結果、eNOS活性化に関わるシグナル伝達路の中で、大動脈に比し腸間膜動脈において、CaMKK-β活性が有意に抑制されていることを見出した。この機序が、血管内皮機能を「導管型」にするか「抵抗血管型」にするかの中心的な機序になっている可能性が出てきた。言い換えれば、この分子機構を修飾することにより、血管内皮機能をNO型にするかEDHF型にするか、調節できる可能性が出てきた。CaMKK-β以外の細胞内シグナル伝達分子についても現在検討中である。 3.抵抗血管でNO反応に比しEDHF反応が優位になっている機序として、上述した血管内皮の機能分化に加えて、血管平滑筋側の要因の関与も考えられる。この点を検討したところ、外因性の過酸化水素投与に対する血管平滑筋の弛緩反応が大動脈に比して腸間膜動脈で亢進していた。過酸化水素による血管平滑筋の弛緩にはPKGlaが関与していることが報告されているので、現在、この点を検討中である。 4.上記の1~3の知見により、なぜ抵抗血管においてEDHF反応が優位になっているのかに関する分子機構が次第に明らかになってきている。EDHF反応はNO反応に比して動脈硬化危険因子により低下しにくく、NO反応をバックアップし、臓器血流を維持する重要な働きをしている。本研究を推進することにより、新たな血管機能保護に関する治療法が開発されることが期待される。
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