研究概要 |
特異的蛋白質S-ニトロソ(SNO)化蛋白質同定法と抗体アレイ法をハイブリッドしたスクリーニング系を構築/使用し,新規の酸化ストレスの標的となる蛋白質の同定とその影響について解析した.スクリーニングの結果,50種あまりの候補蛋白質を単離し,その中でも蛋白質脱リン酸化酵素に着目して詳細な解析を行った。本蛋白質はNOドナーや細胞内NO合成酵素を活性化させる薬物処理によってシステイン残基がS-ニトロシル化された.また,その修飾部位を決定するために,すべてのシステイン残基をセリン残基に置換した変異体を用いて調べたところ,酵素活性に重要とされるシステイン残基ではなく,その近傍に位置しているシステインが標的であることを明らかにした.この修飾は酵素活性に対して負に働き,その結果,下流のシグナル伝達が興奮することを見出した.また,この蛋白質はこれまでに明らかとされたS-ニトロシル化蛋白質の中でも最もNOに対して感受性が高い,すなわち非常に低濃度のNOによって酸化されることがわかった.したがって,低濃度のNOが存在する際は,この酵素が特異的に酸化されて下流のシグナルがONになる一方,高濃度のNOが存在する際はこれ以外の酵素も酸化されるためにシグナルがOFFになることが明らかとなった.細胞レベルにおいても低濃度のNOは酵素活性を負に調節することで,血管内皮細胞での血圧調節を正に保つことに役立っていることがわかった.今後は中枢神経系における役割を解明して行く予定である.
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