研究概要 |
特異的S-ニトロソ(SNO)化蛋白質同定法と抗体アレイ法をハイブリッドしたスクリーニングにより,NOの標的蛋白質としてPTENを単離同定することに成功した.PTENとNOの関係について詳細な解析を進めたところ,PTENのニトロシル化は非常に低濃度のNOによって起こること,また標的となるシステイン残基はこれまでに報告のあった過酸化水素によるそれと異なる部位(Cys83)で起こることを新たに発見した.これは酸化ストレスの種類によって修飾される部位が異なる初めての例であり,非常に興味深い知見であった.この修飾によってPTEN活性は消失することから,NOによるアロステリックな酵素活性調節機構が存在することを世界で初めて明らかにした.この抑制によって,下流に存在するAktが活性化するが,高濃度のNOでは逆にAktが抑制されることがわかった.これはPTENとAktのNOに対する感受性の違いによることを証明した.このような現象の生理的あるいは病態生理的機構への関与を検討した.血管内皮細胞においては,低濃度NOによってPTENのS-ニトロシル化に起因するAktの活性化が起こり,eNOSがリン酸化されてNO合成が亢進することを見いだした.したがって,内皮細胞では低濃度NOによってeNOS由来の持続的なNO産生が起こることがわかった.一方,脳梗塞モデルラットにおいては梗塞層中心部ではNO濃度が高く,周辺部では低いことが知られているが,S-ニトロシル化タンパク質量も同様であった.さらには,S-ニトロシル化PTENはどちらの部位でも認められたが,S-ニトロシル化Aktは中心部で顕著であった.このとき,pAkt形成は周辺部のみで,TUNEL陽性神経細胞は中心部で認められた,したがって,梗塞脳周辺部における遅延性の神経細胞死は低濃度NO暴露によって惹起されるAkt活性化・生存シグナルの亢進である可能性が強く示唆された.
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