研究概要 |
アンジオテンシンtype1受容体(AT1R)は,心臓の形態構造的改変(リモデリング)や不整脈を誘発する責任受容体として注目されている.AT1Rの発現量は,一酸化窒素(Nitric Oxide ; NO)や過酸化水素により負に調節されることが知られているものの,その詳細な機構はわかっていない.我々は,プリン作動性P2Y_2受容体アゴニストであるATP刺激がNO依存的にAT1R発現量を低下させることを見出した.この過程には,カルシニューリン-NEAT活性化による誘導型NO合成酵素の発現誘導が関与していた.さらに,iNOSとNF-κBのp65サブユニットが細胞質で複合体を形成すること,およびiNOSによって局所的に産生されるNOがp65のCys^<38>残基と共有結合(S-ニトロシル化修飾)することでNF-κB活性を負に調節することを明らかにした.この現象は,マウスの圧負荷モデルにおいても機能していることが確認された(Proc.Natl.Acad.Sci.USA., in press).一方,百日咳毒素がToll様受容体(TLR4)を介してAT1R発現量を増加することも明らかにした(J.Biol.Chem., 2010).この過程には,低分子量G蛋白質Racの活性化によるNADPH oxidase依存的なROS生成とそれに続くNF-κBの活性化が関与していた.さらに,ROSによるNF-κBの活性化はIκBのリン酸化による分解に依存しており,p65サブユニットのシステイン修飾の関与は認められなかった.これらの結果は,ROS/NOの生成系とセンサー分子との複合体(シグナルソーム)形成が,NF-κB活性機能調節における活性酸素の種特異性を制御していることを示唆している.
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