研究概要 |
酸化ストレスにより誘発される心血管組織の形態構造改変(リモデリング)が,様々な心血管病を誘発する原因となっている.我々は心血管リモデリングの重要因子であるアンジオテンシンIIに着目し,その責任受容体であるAT1受容体の発現量が別のG蛋白質共役型受容体(P2Y2受容体)により負に制御されることを見出した.この過程には,一酸化窒素(NO)合成酵素と転写因子NF-κBとの結合によるNF-κBの局所的な翻訳後修飾(S-ニトロソ化)が必要であること,およびこの機構が高血圧負荷で生じるマウス心臓AT1受容体発現低下に関与していることを新たに見出した(Proc.Natl,Acad.Sci.USA,2011).この現象はNF-κBの核移行を促すサイトカイン刺激では起こらないことから,活性酸素生成系-センサー/エフェクター分子との相互作用がシグナリングの特異性を決定づける重要な要素となることが明らかとなった.一方,心筋梗塞後の心機能が低下した心臓(不全心)において,NO由来の2次生成物8-nitro-cGMPが著しく合成誘導されていた.8-nitro-cGMPを心筋細胞に処置すると,MAPKの持続的活性化を伴う細胞老化が誘導された.さらに,8-nitro-cGMPの標的分子が癌遺伝子産物H-Rasであることを見出した.8-nitro-cGMPはH-RasのC端可変領域のCys184を修飾(S-グアニル化)し,H-Rasを脂質ラフトからラフト外に解離させることでH-Rasを活性化させるという全く新しい活性化機構を発見した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
活性酸素によるアンジオテンシン受容体の発現制御機構に関しては,活性酸素生成系とセンサー/エフェクター分子(NF-κB)の相互作用によるNF-κBの酸化修飾で全て説明づけられることが明らかとなった.これに加えて,心臓リモデリングを制御する酸素由来活性種の新たなセンサー分子として低分子量G蛋白質H-Rasを最近見出した.H-Rasの親電子修飾がH-Rasを持続的に活性化させることで心筋細胞の老化を誘導することを明らかにし,硫化水素イオンがこれを抑制することを新たに見出した,本知見は,生物学的意義のみならず臨床的にも非常に意義深い知見だと言える.
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