研究概要 |
ATP加水分解反応のミクロ過程の解明につながるリアルな多極効果、分極を取り入れた分子モデルを開発するため、生体分子の構成要素となる様々な官能基をもつ低分子、アミノ酸などに対して量子化学計算を行った。具体的には、既にNMR等でダイナミクスに関する実験がある程度なされているアルカリ金属イオン(Li+, Na+, K+)とハロゲンイオン(F-, Cl-, Br-, I-)に対し、水和した状態でGaussianで複数の規定関数(6-311G、CEP2-311)とモデル化学を用いて計算し、Mulliken電荷解析とNatural Bond Orbital(NBO)解析を行って周囲の水分子の分極状態を調べた。その結果、純水に比べ、LiとF以外では分極が低下していることがわかり、水分子の運動性の上昇を示唆する結果となった。これはK+やI-イオンに関しては妥当に見えるが、それ以外のNa+やCl-などに関しては実験と整合的ではないため、今後の課題が残された。また既存の点電荷モデルを水(SPC/E)と溶質に対して用いて、ATP加水分解反応のモデル分子である3燐酸、2燐酸、モノ燐酸の水溶液系でのMDシミュレーションを開始した。その結果、マイナス2程度に荷電したモノ燐酸の周囲では、水分子の運動性の上昇することが示された。加えてタンパク質の構成要素であるアミノ酸周囲における水和ダイナミクスの計算を20種類のアミノ酸に対して開始したが、こちらはいずれの場合でも通常の運動性が低下した水和水が疎水および親水性の官能基の周囲に観測されただけであった。今後は分子モデルを検討しながら計算を進めていく必要がある。
|