研究概要 |
(1) F_1-ATPaseのGroup I(β_E, γ, α_E,α_<TP>)、Group II(β_<TP>, γ, α_<TP>, α_<DP>)、Group III(β_<DP>, γ, α_<DP>, α_E)に注目し、分子性流体用積分方程式論(水分子に対して多極子モデルを採用)と形態熱力学的アプローチの統合型方法論を用いて、各Groupの水和エントロピーを計算した。その結果、水の並進配置エントロピーを最大にするためには、3個のGroupsに対してパッキングの不均一性を生じさせる必要があることが分かった。この不均一性こそが、F_1-ATPaseのγの回転を生み出す鍵となっているものと考えられる。 (2) 生体高分子容器内への大きな溶質分子の挿入は、生体系における基本プロセスの一つである。我々は、3次元積分方程式論に基づくモデル解析によって、「かなり広い範囲の大きさを持つ溶質分子が、水分子の並進移動に伴うエントロピー効果によって容器内に挿入され、ほぼ中央にある狭い空間内に(容器内表面に接触しないで)強く閉じ込められる」ことを明らかにした。ABCトランスポーターの多剤排出機構との関連性についても考察した。 (3) ミオシンS1に対する柳田らによる一分子計測の実験事実と、3次元積分方程式論に基づく我々のモデル解析の結果を総合し、F-actinに沿ったS1の一方向移動のメカニズムに対する基本的な描像を得た。この描像では、「ミオシンとATPの結合⇒ATPの加水分解⇒分解生成物の遊離」というサイクルを繰り返すことにより、ミオシンに対して形成されるエントロピーポテンシャル場を巧妙に調節しながら、一方向移動を実現する。この描像は、水分子の並進移動に起因したエントロピー効果に主眼を置いている点で斬新である。
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