研究概要 |
ATP駆動蛋白質は,ATPの方がADPよりもレセプターとの親和性が高く,ATP濃度が十分高く,ADP濃度が十分低い条件下で機能する。その場合,ATPの結合,ATPの加水分解,ADP・Piの解離のどれも(以下より,これらを一括してATPの作用と呼ぶ)が,システムの自由エネルギー低下に結び付く,すなわち,起こってしまう。アクトミオシンにおけるアクチンフィラメント上のミオシンの一方向移動,シャペロニンの蛋白質折り畳みの援助機能(変性蛋白質を中に取り込み,折り畳みを終えた蛋白質を元へ放出する),F_1-ATPaseにおけるγサブユニットの一方向回転における我々の研究成果を元に,ATP駆動蛋白質の作動原理に対する横断的描像を構築した。水が,ミオシン-アクチンフィラメント,蛋白質-シャペロニン,溶質-トランスポーター,α_3β_3複合体-γサブユニットの各ペア間にポテンシャル場(平均力のポテンシャル)を作る。その場合,アクトミオシンとF_1-ATPaseでは水の並進配置のエントロピーが主導的な役割を果たすが,シャペロニンとトランスポーターではエネルギー的な因子も重要と成る。ポテンシャル場は,ペアの立体構造と性質に強く依存して変化する。ATPの作用により,ペアの立体構造と性質がパーターブされ,ポテンシャル場も変化する。このメカニズムを通して,ミオシンの一方向移動,蛋白質や溶質の挿入/放出,γサブユニットの一方向回転が実現する。ペアの立体構造と性質およびポテンシャル場がATPの作用によって制御されているが,実行部隊は水であるという見方ができる。研究の過程で,3次元積分方程式論および分子性流体用積分方程式論と形態熱力学理論の統合型アプローチという我々の2つ武器の有用性を確認することができた。
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