(1)蛋白質の低温変性を取り上げた統計熱力学理論解析の結果に基づき,「疎水性」の本当の物理起源が,溶質挿入に伴う系内水分子間の混み合いの増加に起因することを示した。 (2)Yeast F1-ATPaseに対して,βEからのPiの解離に起因してガンマサブユニットが16度回転する前と後の複合体の立体構造が報告されている。それを用いて回転に伴う複合体充填構造の変化を水和エントロピー理論を用いて解析し,我々が既に提案した回転機構の描像の妥当性を検証した。 (3)ATP駆動蛋白質の機能発現機構に対する横断的描像を構築した。水が,ミオシン-F-actin,蛋白質-シャペロニン,溶質-トランスポーター,F1におけるα3β3-ガンマの各ペア間に平均力のポテンシャル(PMF)を作る。PMFは,ペアの立体構造と性質に依存して変化する。ATPの結合,加水分解,分解生成物の解離により,ペアの立体構造と性質が摂動を受け,PMFが変化する。これによって,ミオシンの一方向移動,蛋白質や溶質の挿入/放出,ガンマサブユニットの一方向回転が起こる。1サイクルで,ミオシン,シャペロニン,トランスポーター,F1は元の状態に戻るが,系の自由エネルギーは主としてATPの水溶液中における加水分解自由エネルギー分だけ低下する。 (4)最近,1分子実験により,ショ糖を添加するとATPのミオシンへの結合に伴うミオシンのF-actinからの解離が劇的に遅くなることが示された。一方,ショ糖の添加が蛋白質熱安定性の上昇をもたらすことが知られている。これらの物理要因が,共に水のエントロピー効果の強化であることを明らかにした。 (5)溶質-容器間のPMFのエントロピー成分が支配的になるように容器内表面の性質を選び,溶質挿入後に容器の幾何学的形状を連続的に変化させると,種々の大きさと性質を持つ溶質を放出できる「多剤性」が実現されることを示した。
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