非常に大きな蛋白質やそれらの会合体をもかなり精密にかつ短い計算時間で扱うことのできる独自の統計熱力学理論を武器とし、「(1)F_1-モーター(F_1-ATPase);(2)ABCトランスポーター;(3)シャペロニンGroEL;(4)アクトミオシン」を主たる対象として選定して、水が果たす役割を具体的に解明する。以下の概念に注目することを特徴とする:(A)蛋白質の折り畳み、レセプターとリガンドの結合、蛋白質の会合による高次構造形成などにおいては、水の並進配置エントロピーを増加させることが強力な推進力となる;(B)F_1-ATPaseのような蛋白質会合体は、水の並進配置エントロピーをできる限り大きくするように充填された立体構造をとらされる;(C)F-actin近傍におけるミオシンには、水分子の並進移動に起因して、ミオシンおよびF-actin表面の幾何学的形状を反映したエントロピー力場が形成される。蛋白質とヌクレオチドの相互作用、「蛋白質とATPの結合⇒ATPの加水分解⇒分解生成物の遊離」の各ステップにおける蛋白質や蛋白質会合体の立体構造変化の仕方、上記エントロピー力場の変化などを解析する。その結果を踏まえ、生体内における他のATP駆動蛋白質の機能発現における水やATPの役割を横断的に解明し、水を脇役としか見ていない現存のATPエネルギー変換論を根本的に塗り替える。
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