研究領域 | 水を主役としたATPエネルギー変換 |
研究課題/領域番号 |
20118006
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
櫻井 実 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 教授 (50162342)
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研究分担者 |
原野 雄一 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (60456259)
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キーワード | ABCトランスポーター / CFTR / MDシミュレーション / MMPBSA法 / ATP / 水和 / ホモロジーモデリング |
研究概要 |
1.ホモロジーモデリングによりABCトランスポーターCFTRのinward-facing構造を作成し、MDシミュレーションを実行した。NBDにATPが結合した系と結合してない系の挙動を比較したところ、前者ではATP分子がWalker AとSignatureモチーフにサンドイッチされることにより、NBDが二量体化した。一方、後者ではNBD間は離れたままであった。また、前者ではTMD部分の構造変化も検知された。以上より、ATPは”糊”の役割を果たし、ATPの結合エネルギーが蛋白質のpower strokeに転換されることが示された。 2.ATP結合によるNBD二量体化過程の結合自由エネルギーをMMPBSA法を用いて評価した。その結果、ATPが結合するとNBD間に強い引力相互作用が生じるが、その大部分は各成分の水和自由エネルギーによって相殺されるため、水中での正味の結合エネルギーとしては数kcal/mol程度になることが判明した。これはATPの加水分解エネルギーよりもわずかに小さく妥当な値と言える。 3.NBD二量体の安定化機構を調べるため、NBD同士をつなぎとめているATPの糊としての作用、及びATPを介さないNBD-NBD間の直接的な相互作用の寄与を個別に評価することを目的に、CFTRの変異体を用いたパッチクランプ実験を行った。その結果、ATPの糊としての効果はADPの糊としての効果よりも200倍大きくNBD二量体を大きく安定化させる。また、NBD間の直接的な相互作用はATPの糊としての効果ほどではないが、NBD二量体の安定化に寄与していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトでは、当初計画において大きな目標として、ABCトランスポーターの機能発現過程における1)ATP結合の役割、2) ATP加水分解の役割、3) 更にはそれらに付随して水がどのような役割をしているのかを解明することを挙げていた。この中で1) ATP結合の役割は本年度までの研究でほぼ明らかとなり、順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画に中で残された点は、 ATP加水分解の役割、及びATPと一緒に水がどのような役割をしているのかを解明することである。最終年度では、CFTRのinward-facing構造からのNBD二量体化過程において水がどのような役割をしているのかを明確にするため、3D-RISM法を用いた解析を行う。さらに、TMDへの基質結合に伴ってNBD部分にどのような構造変化が誘起されるかを調べ、TMDとNBDの間のアロステリックコミュニケーションについて解析する。この問題に関しては、マウスのABCB1トランスポーターにベラパミルなどの基質を結合させた系に対するMDシミュレーションを行うことにより解答を得る。
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