1.前年度ABCトランスポーターCFTRのinward-facing構造に対するMDシミュレーションを行い、NBDにATPが結合しているときのみNBDが二量体化することを示した。本年度では、数10Åも離れた2つのNBDがATPが存在するとなぜ接近し接着するのかを解明するため、MDシミュレーションのトラジェクトリーデータからNBD部分のみをピックアップし、3D-RISM法で水和の熱力学量を計算した。その結果、NBDの接近過程は水和エンタルピーによって、接触・結合過程は水和エントロピーによって駆動されていることが判明した。 2.ATPの加水分解の役割を調べるため、NBD二量体化の自由エネルギーを次の3つの状態について計算した。すなわち、1)加水分解前で2つのATPが結合している状態、2)加水分解直後でADP+Piの状態、3)Pi放出後で2つのADPが結合している状態。その結果、1)では6~7kcal/mol程度の結合エネルギー利得が得られた。2)では2.5kcal/mol程度まで減少していたが、まだ二量体の形成に十分なエネルギー利得があった。3)のPi放出後はじめて結合エネルギーは正となり二量体は解離することが判明した。したがって、ATPの加水分解が直接の原因となって蛋白質の運動が誘起されることは考えにくい。なお、1)と2)の状態でNBD二量体化の自由エネルギーが負になる主要な原因は水のエントロピー効果であることが判明した。 3.TM287/288のX線構造を鋳型としてCFTRのホモロジーモデリングをやり直し、MDシミュレーションを実行した。NBDにATPが結合した系では、ATP分子がWalker AとSignatureモチーフにサンドイッチされることによりNBDが二量体化するとともに、TMDも明白な構造変化を示し、塩素イオンの輸送経路が形成されることが見出された。
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