(1)「ATPの高エネルギーリン酸結合の物理起源は何か」の問題に対し、溶媒効果を含む量子化学計算から解答を得る。すなわち、水や蛋白質を模した種々の誘電率環境中でATPの加水分解自由エネルギーを評価し、その結果を内部エネルギー効果、静電的及び非静電的溶媒和などに分割し各項の寄与を明らかにする。 (2)「ABCトランスポータの構造変化のエネルギー源は何なのか」という問に対し、エネルギー表示自由エネルギー計算法や分子性流体積分方程式論に基づく計算機シミュレーションを行い、ATP の結合にともなう系の自由エネルギー変化と水の並進エントロピーの寄与を明らかにし、ATPのリガンドとしての特異性及び水の役割を解明する。 (3)「ATPの化学エネルギーは何に使われているのか」という問題に対し、ATPを含む化学反応部位と周囲の蛋白質部位との相互作用を量子力学/古典力学練成(QM/MM)計算から評価し、蛋白質中での加水分解反応の自由エネルギープロファイルを得る。その結果より化学→力学エネルギー変換機構を解明する。 (4)ABCトランスポータ内の力学→力学エネルギー伝達機構を解明するため、エンジン部分(ヌクレオチド結合ドメイン:NBD)と動作部分(膜貫通ヘリックス;TMD)を接続するトランスミッション部分(カップリングヘリックス)の役割を分子動力学シミュレーションを用いて調べる。 (2)~(4)の結果を総合して、最終的にトランスポータの動作原理について原子レベルの描像を得る。
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