画像情報には現れない為に軽視されがちな水分子等の小分子に関する情報に、熱力学、統計力学の観点から光を当ててきた。特にタンパク質の折れ畳みや分子認識の研究で認識されつつある、水分子の並進運動効果を重視した研究を行ってきた。ATP駆動タンパク質-ヌクレオチド間の分子認識、構造変化、及びATPエネルギー変換の機能発現を溶液内の分子の並進運動効果に着目しつつ、シンプルな描像で捉える事が本課題の目的である。分子シミュレーション等を行いながらも、モデル計算と統計力学理論を重視し、他の領域内研究との有機的連携を図ってきた。3年目に予定していた巨大分子の拡散係数を溶質溶媒動径分布関数から求める吉森との共同研究を開始し、結果を得つつある。計算結果は、共溶媒を添加した場合に巨大分子が感じる摩擦は予想以上に大きくなる事が予想された。この結果は同じ領域の岩城らの1分子測定における添加物効果と比較検討中である。また、MSA理論を用いて溶質が双極性分子溶媒の運動性に与える影響を研究中である。この結果は、高橋らの計算や鈴木らのハイパーモバイル水の実験と比較しうる。水のシミュレーションに基づく研究も準備中である。また、アクチンのみの会合でもモーターとして働きうるが、その会合のメカニズムに関してHNC-OZ理論を基にモデルをたてた。結果的に得られた描像は、実験との矛盾は無い。今後、詳細について検討してゆく。この結果は同じ領域の安永らの結果などとも比較できそうである。最近、非平衡状態に対する分子シミュレーションを行う事で化学反応を力学的仕事に変換できるモデル系を見つけた。本領域とのつながりはまだ十分に検討されていないが、興味深いモデル系になると思われる。
|