研究領域 | 水を主役としたATPエネルギー変換 |
研究課題/領域番号 |
20118007
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
秋山 良 九州大学, 理学研究院, 准教授 (60363347)
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研究分担者 |
吉森 明 九州大学, 理学研究院, 准教授 (90260588)
徳永 健 工学院大学, 工学部, 助教 (30467873)
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キーワード | 化学物理 / 生物物理 / 液体論 / 分子認識 / 多成分系の熱力学 / ATP / 共溶媒効果 / モーター蛋白質 |
研究概要 |
画像情報には現れない為に軽視されがちな水分子等の小分子に関する情報に、熱力学、統計力学の観点から光を当ててきた。特にタンパク質の折れ畳みや分子認識の研究で認識されつつある、水分子の並進運動効果を重視した研究を行ってきた。ATP駆動タンパク質-ヌクレオチド間の分子認識、構造変化、及びATPエネルギー変換の機能発現を溶液内の分子の並進運動効果に着目しつつ、シンプルな描像で捉える事が本課題の目的である。3年目に予定していた巨大分子の拡散係数を溶質溶媒動径分布関数から求める吉森との共同研究を継続し、論文の発表を続けている。これは、岩城らの1分子測定における添加物効果と関連している。水中のイオンの感じる静電ポテンシャルのシミュレーションを開始し結果を得たが、その結果を論文として発表した。更に、分子動力学計算を用いてイオンの周囲の水の誘電緩和を評価した。その結果、セルフ項のみでなくクロス項まで評価した場合にバルクより早い緩和がみられる事が分かった。その早い緩和のタイムスケールは、鈴木らのハイパーモバイル水の実験のタイムスケールにほぼ等しい。またバルクの水の緩和のタイムスケールも実験とシミュレーションでほぼ等しい事から、ハイパーモバイル水の描像に関して本質に迫りつつあると考えている。これは、今年度最も重要な結果であろう。また、アクチンのみの会合でもモーターとして働きうるが、昨年度はその会合のメカニズムに関してHNC-OZ理論を基にモデルをたてた。その結果と現実系との対応が大きく進んだ。今後、詳細について九工大の安永らと検討を進めてゆく。最近、非平衡状態に対する分子シミュレーションを行う事で溶媒和変化を利用して化学反応を力学的仕事に変換できるモデル系の性質を調べ結果の一部を論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年まではやや遅れている状態であったが、2人目の博士研究員の活躍でハイパーモバイル水に関する理解をはじめ、特にダイナミクスに関する議論が急速に進んでいる。また、当初は直接関係するかどうか分からなかった同符号マクロイオン間の引力相互作用の研究がアクチンの会合と解離を利用したモーター作用と関係がつきつつあり、上記区分と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
最も重要なハイパーモバイル水の理解に繋がるイオンの周囲の誘電緩和のシミュレーションを中心に推進する。特に、モデル系を用いて早い緩和が現れる機構を理解する事、イオン種依存性を検討して実験との対応を深める事が重要になるであろう。可能ならばアクチン表面やATPを用いた解析を考えたい。また、マクロイオン間の引力相互作用については、球以外での形状を考慮した計算やカウンターイオンの種類の効果、アクチン系で実験の提案を進めたいと考えている。特に球以外の形状を考慮した計算手法の開発では量子化学の方法が参考になると考えている。
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